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2015/02/27

【Ⅵ-02】 チカーノ・アート展 Chicano Art Exhibition

チカーノ・アート展
会 期:2003年6月25日~7月13日
後 援:メキシコ大使館
協 力:加藤薫/Music Camp, Inc.
企 画:ガレリアリブロ/岩崎ミュージアム
会 場:岩崎ミュージアム
神奈川県横浜市中区山手町254

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 米国には多くのマイノリティ社会が存在し、「チカーノ」と一般的に呼ばれるメキシコ系アメリカ人社会はその一つである。ラテン音楽やエスニック料理を通じてラティーノ文化の香を最近の日本人は体感していますが、見えているようでまだ見えていない「チカーノ」を美術面から捉えようと、多民族・多文化の共生するアメリカ美術業界において、新しいトレンドを生み出す重要なパワーとなっている「チカーノ・アート」を紹介。
 
 メキシコ系アメリカ人であるチカーノが半分以上占めるラティーノは、米国社会に影響を与えている。米国大統領選挙での彼等の投票行動への注目ぶり、商品開発に彼等の価値観、嗜好の採用などが挙げられ、チカーノ・アートも21世紀の米国社会の動向を示す指針のひとつとして考えられている。変化する米国の社会、文化、美術を真剣に見つめていこうとすれば、日本におけるステレオタイプのアメリカ現代美術の見方や分析の方法では不十分であることを、チカーノ・アートの動向を目の当たりにすれば感じざるを得ない。

「チカーノ・アート展」によせて 加藤薫

 近の国勢調査結果に拠ると、米国のラティーノ人口はついに3700万人を超えたようだ。これは人口約3620万人のアフリカ系アメリカ人を抜いて、米国人口の約13%以上を占める最大のマイノリティー集団となったことを意味する。とはいえ、人口増に比して政治的、社会的発言力が急速に高まっているというわけでもない。

 「ティ-ノ」とは米国籍を持つラテンアメリカ出身者のことで、キューバ系、プエルト・リコ系、それにメキシコ系が三大集団となっている。中でもメキシコ系アメリカ人の占める割合は大きく、約2100万人となっている。「チカーノ」とはこのメキシコ系アメリカ人の中でも、自らをアストラン(注)の子孫だというアイデンテイティーを強く持つ人たちである。米国内に住むメキシコ系住民としては、他にメキシコ国籍を持つ合法的滞在者(約1400万人)と非合法的滞在者(推定約350万人)がいて、チカーノの二軍的存在となっている。さらに付け加えれば、同じくメキシコ系ながらも植民地時代に新大陸に移植されてきたスペイン的文化伝統継承者であることを強調してスパニッシュ・アメリカ人と自認する人々が約90万人ほどいる。

 カーノの自意識は、1960年代に盛んとなった黒人や先住民インディアンの公民権獲得運動と連帯する過程で形成されてきた。このチカーノ運動と共に誕生したチカーノ・アートは、従って一見素朴画風の表象を持つような作品でも反アングロ色の強い社会的メッセージや政治的主張を込めているものが多い。チカーノ・アートは、社会のマイノリティーという逆境を克服するタフでパワフル、それでいてユーモアや風刺の精神に満ちたアートであり、根拠のない偏見を持つ人々を皮肉っている。もちろんまだ多数派であるアングロ系アメリカ人やその文化に対する抵抗の意思だけでなく、コロニアやバリオと呼ばれるチカーノ・コミュニティー内の矛盾や、社会の弱者一般に共通する教育や福祉の問題、さらには人類共通の課題である環境汚染や生態系の破壊問題などにも眼を向ける。この意味でチカーノ・アートは極めて21世紀的なアートとも言える。

 カーノ・アートは長らく反体制的サブカルチャー現象という扱いだった。つまり全米に数多ある美術館やギャラリーといったメインストリームの美術品展示システムからは無視され排除されてきたということだ。そのためチカーノ・アートは壁画やグラフィティ、そして複製可能な版画やポスターというマスメディア的特性を持つ表現手段から出発せざるをえなかった。美術の文脈で言えば、ゲリラ的なパブリック・アートとしてしかスタートを切れなかったということだ。ロサンジェルスやサンフランシスコ、サンタフェ、シカゴなど大都市だけで数千点はある巨大で過激かつ重層的な意味と象徴記号にあふれた壁画こそチカーノ・アートの真髄であり、それはかつて国際的現代美術シーンに衝撃を与えたメキシコ壁画運動の精神を継承し、復活させたものでもある。そしてポスターや版画は建造物やコミュニティーといったトポロジカルな制約がない分だけ、より自由なかつ廉価な表現媒体としてより広範囲に拡まった。

 展はチカーノ・アートのポスター、版画などの作品によって構成される。小規模ながらもおそらく日本で「チカーノ・アート」の作品群という形でまとめて紹介されるのは初めてのことであろう。1980年代制作の作品が多いが、この時期にチカーノ・アートがようやく社会全体に認められ始め、扱う主題や表現方法が急激に多様化した。1970年代に大都市に住むチカーノの若者の間で発生した「チョロ」ファッションを記号化したフアン・フエンテス作≪チョロ・ライブ≫、そのチョロ文化に先行して1930年代に発生した「パチューコ」文化の象徴であるズート・スーツを着た当時の若者(ズートスーター)の生態を演劇に、そして映画化も果たしたルイス・バルデスのポスターなどからは日本のサブカルチャー・ファッションのルーツを見ることができる。強烈な政治的メッセージを放つヨランダ・ロペスのポスター≪誰が不法入国者だって、清教徒のことではないのか?≫はステレオタイプの米国史観の再考を促す。ミカエル・アメスクアの作品≪トチ≫やアルフレド・アレギン作の≪歓喜≫などはアストランというルーツを共有する先住民インディアンとの連帯の意識や、共通する自然との共生意識などが読み取れる。ささやかな本展を通じて、チカーノ・アートの主張や表現の多様性を感じとっていただければ幸いである。

(かとう かおる:中南米・カリブ圏・ラティーノ美術研究者、神奈川大学教授)

(注) 「アストラン」とはかつてアステカ帝国を築いたメシーカ人はじめ、現在はメキシコと米国に分断された全ての先住民の発祥の地として語られる場所、およびその地の出身者の子孫全てを指す概念。未だ考古学的な確証はないが、もし実在するとすれば米国サウスウエスト諸州南部にあったとされる。国境を越えてメキシコ系住民を再統合するネイション概念としても使われる。(加藤薫の著作はこちら

 

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